更年期とデリケートゾーンの乾燥・性交痛について
はじめに:誰にも言いにくいけれど、とてもよくある悩み
「最近、デリケートゾーンが乾燥してヒリヒリする」
「性交渉のときに痛くて、気持ちよさよりも“我慢”になってしまう」
更年期前後になると、このような悩みを抱える方は決して少なくありません。
でも、恥ずかしさや「年齢のせいかな…」という気持ちから、誰にも相談できず、一人で抱え込んでしまいやすいテーマでもあります。
この記事では、
- なぜ更年期にデリケートゾーンが乾燥しやすくなるのか
- 乾燥がどうして性交痛につながるのか
- 自分でできるケア
- 医療機関で相談できること
をやさしく整理していきます。
更年期とホルモン変化:からだの中で何が起きている?
更年期とは、一般的に閉経をはさんだ前後10年ほどの時期を指します。卵巣の働きがゆっくりと終わりに向かい、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が大きく変化していく時期です。
エストロゲンには、
- 子宮や卵巣の働きを整える
- 骨や血管、皮膚を守る
- デリケートゾーン(膣・外陰部)の粘膜をしっとり保つ
といった役割があります。
このエストロゲンが減ってくることで、ホットフラッシュやイライラ、不眠などの「更年期症状」とともに、デリケートゾーンの乾燥やかゆみ、違和感も現れやすくなります。
デリケートゾーンで起こる変化
エストロゲンの低下により、デリケートゾーンでは次のような変化が起きやすくなります。
- 粘膜が薄くなり、うるおいが減る
- ふっくら感が減り、ハリがなくなる
- ちょっとした刺激でもヒリヒリ・ピリピリしやすい
- 下着やナプキン、尿もれパッドなどの擦れが負担になりやすい
その結果として、
- 乾燥感・つっぱり感
- かゆみ・しみる感じ
- おりものの変化(量やにおいが変わることも)
といった不快感につながることがあります。
※強いかゆみ・ただれ・においの変化などがある場合は、更年期変化だけでなく感染症や皮膚炎など別の病気が隠れていることもあります。自己判断せず、婦人科や皮膚科で相談してください。
なぜ乾燥が「性交痛」につながるの?
1.うるおいが少ないと、摩擦が痛みに変わる
性交渉の際、本来であれば膣の中は自然とうるおいが増え、スムーズに挿入できる状態になります。ですが、更年期以降はその自然なうるおいが十分に出にくくなることがあります。
うるおいが足りない状態で摩擦が加わると、
- ヒリヒリ・ズキズキする
- 「切れそう」「裂けそう」な感覚がある
- 終わったあとも痛みが残る・しみる
といった「性交痛」の原因になります。
2.粘膜が薄く、傷つきやすくなっている
乾燥して薄くなった粘膜は、ほんの少しの擦れでも小さな傷がつきやすくなります。
そのため、
- 最初の数回は少し痛いだけだったのが、だんだん憂うつになるほど痛くなる
- 痛みを予想して、からだがこわばり、さらに挿入しづらくなる
という「痛みの悪循環」に陥ることもあります。
3.気持ちの面にも影響が出やすい
痛みが続くと、
- 「パートナーに申し訳ない」
- 「もう女として終わりなのかな」
- 「誘われると不安になる」
と気持ちにも影響が及びます。
心のストレスは、からだの緊張やうるおいの出にくさにもつながり、さらに痛みが強く感じられることもあります。
自分でできる日常ケア
1.洗いすぎ・こすりすぎをやめる
「においが気になる」「清潔にしておきたい」という気持ちから、
- 強くこする
- ボディソープで何度も洗う
- ゴシゴシ洗い流す
といったケアを続けると、デリケートゾーンのうるおいはさらに奪われてしまいます。
ポイント
- お湯でやさしく流すだけの日を増やす
- 洗うときは“手のひら”でなでる程度に
- 専用ソープを使う場合も、「少量を短時間」が基本
2.保湿ケアを取り入れる
顔や手と同じように、デリケートゾーンも**「保湿」が大切**です。
- デリケートゾーン用の保湿ジェルやクリーム
- 膣内のうるおいを補う保湿剤(膣用保湿ジェルなど)
を取り入れることで、日常的な乾燥感やつっぱり感が和らぐ方も多くいます。
※デリケートゾーンには、顔用・ボディ用とは違う性質の粘膜が広がっています。専用品・粘膜にも使用できることが明記されているものを選び、違和感があれば使用を中止し、医療機関に相談してください。
3.性交時は「潤滑剤(ローション)」を味方に
性交渉のときにうるおいが足りないと感じる場合、潤滑剤(ローション)を使うことはごく自然な選択肢です。
- 痛みを減らし、摩擦から粘膜を守る
- 「痛いかもしれない」という不安をやわらげる
など、心とからだの両方を助けてくれます。
水溶性の潤滑剤は、コンドームと併用しやすく、洗い流しも比較的簡単です。ただし、成分や使用感は商品によって異なるため、自分のからだに合うものを少量から試してみると安心です。
医療機関で相談できること
「痛み」や「出血」を伴うデリケートゾーンのトラブルは、自己判断だけで我慢しないことが大切です。
婦人科や更年期外来などでは、たとえば次のようなアプローチが検討されることがあります。
1.局所のホルモン療法(膣坐薬・クリームなど)
エストロゲンを膣の粘膜に直接補う「局所ホルモン療法」が行われることがあります。
- 膣や外陰部のうるおいを補い、粘膜の状態を整える
- しみる感じや乾燥感、性交痛の改善を目指す
といった目的で用いられます。
※持病や既往歴によって適さない場合もあるため、必ず医師と相談のうえで使用します。
2.全身へのホルモン補充療法(HRT)
ほてりやのぼせ、睡眠トラブルなど他の更年期症状も強い場合、ホルモン補充療法(HRT)が選択肢になることもあります。
HRTは、
- 更年期症状がつらく、日常生活に支障が出ている
- 医師が必要性と安全性を十分に検討したうえで
行われる治療です。デリケートゾーンの不調にも良い変化が見られることがありますが、すべての方に必須の治療ではありません。
「興味はある」「不安もある」という場合は、一人で調べて決めてしまうのではなく、婦人科で疑問や心配をそのまま相談することをおすすめします。
3.ほかの病気が隠れていないかのチェック
性交痛やデリケートゾーンの痛みの原因は、更年期の乾燥だけとは限りません。
- 感染症(カンジダ膣炎、細菌性膣症など)
- 外陰部の皮膚炎・湿疹
- 良性腫瘍・ポリープ など
別の原因が見つかることもあります。
次のようなときは、早めの受診がおすすめです。
- 痛みが強く、生活や夫婦関係に支障が出ている
- 少しの刺激でも出血する
- おりものの色やにおいが急に変わった
- 市販薬やセルフケアを試しても改善しない
パートナーとのコミュニケーションも大切なケア
性交痛は、からだだけでなく、パートナーとの関係にも影響しやすいテーマです。
- 「痛い」と言って嫌われないだろうか
- もう求められなくなったらどうしよう
- ガマンすればいいだけだと思ってしまう
そんな気持ちが、さらに痛みを悪化させてしまうこともあります。
伝え方のヒント
- 「あなたのことがイヤだからではなく、からだの変化で痛みが出てしまっている」ことを伝える
- 「今日は痛みが強いから、スキンシップ中心で過ごしたい」など、できそうなことを一緒に考える
- 潤滑剤や体位の工夫、前戯を長くするなど「二人でできる対策」として相談する
性交渉の形は、年齢とともに変化していってもよいものです。
「気持ちよさ」「安心感」「つながり」を二人で再定義していくことも、立派なケアの一つです。
まとめ:我慢しなくていい痛みです
- 更年期のホルモン変化によって、デリケートゾーンの乾燥や粘膜の薄さが進み、性交痛につながることがあります。
- 洗いすぎをやめる・保湿ケアや潤滑剤を取り入れるなど、セルフケアで改善が期待できる場合もあります。
- つらい痛みや出血を伴う場合、感染症の疑いがある場合は、我慢せずに婦人科などの医療機関へ相談することが大切です。
- パートナーとのコミュニケーションも、心とからだを守る大切なケアです。
「年齢のせいだから」「仕方がないことだから」と痛みを抱え込む必要はありません。
気になることがあれば、信頼できる医療者や専門店で、どうぞ遠慮なく相談してみてください。あなたのからだと心が少しでもラクになるよう、一緒に考えていくことができます。
